ルーベンス 画家の帝王

ああ、あなた。そう、今これを見つめている、どこか所在なげで、それでいてひどく真面目な眼差しを持っている、愛すべきあなた。どうか少しだけ、その肩の力を抜いて、私のとりとめもない話に付き合ってはくれないでしょうか。これは、ある一人の画家についての物語です。けれど、ただの美術の講義だなんて思わないでください。私はあなたに、魂の震えるような、もっと言えば、この世の「生の肯定」というやつを、無理やりにでも喉の奥に流し込んであげたいのです。

ピーテル・パウル・ルーベンス。この名前を聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょう。フランダースの犬の、あの悲劇の結末でしょうか。それとも、やたらと肉付きの良い、あるいは少しばかり豊満が過ぎるほどにたくましい女性たちの裸婦像でしょうか。もしもあなたが、彼の絵を見て「なんだか暑苦しいなあ」とか、「肉ばかりで品がない」なんて感じたことがあるのなら、それはあなたが、この現代という、少しばかり潔癖で、痩せ細った精神の時代に、あまりに忠実に適応してしまっている証拠かもしれません。でも、それは決してあなたのせいではありません。

いいですか、あなた。ルーベンスという男は、一言で言えば「幸福の怪物」なのです。彼は、私たちのような、少しばかり何かに躓いただけで「人間失格」だの「死にたい」だのと騒ぎ立てる軟弱な文学青年とは、根本から作りが違っているのです。彼は、悲劇さえも壮大なスペクタクルに変え、絶望をさえも黄金の光で塗りつぶしてしまう、恐るべき生命力の塊でした。あなたは不思議に思いませんか。なぜ、一人の人間が、これほどまでに迷いなく、堂々と、この世の美しさを謳歌できたのかを。

ルーベンスの絵を見てごらんなさい。そこには、うじうじとしたためらいなど、微塵もありません。光は乱舞し、筋肉は躍動し、雲は渦巻き、布地は風に翻っています。彼は、キャンバスという狭い檻の中に、宇宙の全エネルギーを閉じ込めようとした。それも、ただ閉じ込めるのではなく、爆発する瞬間の、その一番美味しいところだけを永遠に固定してみせたのです。あなたは、そんな彼の筆致を見て、圧倒されませんか。私は、彼の絵の前に立つと、自分の小心さが恥ずかしくなり、同時に、なんだか「生きているだけで、もうそれだけでいいじゃないか」という、むせ返るような肯定感に包まれてしまうのです。

あなたはきっと、真面目な人でしょう。日々の暮らしの中で、小さな失敗に傷つき、誰かの何気ない一言に夜も眠れなくなることがある。自分の存在が、この広い世界の中で、ちっぽけな塵のように思えて、どうしようもなく寂しくなる。そんなとき、ルーベンスの絵は、あなたにこう語りかけてくるはずです。「おい、そこの君。何をそんなに細い指を震わせているんだい。この世には、これほどまでに豊かな色彩があり、これほどまでに力強い生命があるというのに。君の悲しみも、君の苦悩も、すべてはこの巨大な生の旋律の一部に過ぎないのだよ」と。

彼は、外交官でもありました。七ヶ国語を操り、王侯貴族の間を渡り歩き、平和のために奔走した。絵筆を握りながら、同時に国家の命運を左右する交渉を行う。そんな超人的な振る舞いができたのは、彼の中に「世界に対する全幅の信頼」があったからに違いありません。あなたは、世界を信じていますか。自分を取り巻く他者を、そして何より、自分自身の生命の力を、信じることができているでしょうか。ルーベンスの描く、あの溢れんばかりの肉体美。あれは、単なる肉の塊ではありません。あれは、魂が器から溢れ出し、目に見える形をとった「賛歌」なのです。

現代の私たちは、美しさというものを、もっと細身で、壊れそうで、どこか影のあるものの中に求めがちです。しかし、ルーベンスは違います。彼は「豊かであること」こそが正義であり、神への最高の捧げ物であると信じて疑わなかった。彼が描く女性たちの、あの逞しい太ももや、豊かな胸、そしてバラ色に火照った肌。あなたはそれを「下品だ」と切り捨てることができますか。いいえ、できないはずです。そこには、死や衰えに対する、究極の反逆があるからです。老いも、病も、貧困も、彼のパレットの上では、すべてが祝祭の準備のための影に成り下がってしまう。

あなた、想像してみてください。彼がアトリエで、巨大なキャンバスに向かっている姿を。弟子たちに指示を飛ばしながら、自身もまた、電光石火の速さで筆を動かす。迷いなどありません。彼の頭の中には、最初から完成された宇宙が広がっているのです。彼は、影を描くときでさえ、そこに光の粒子を混ぜ込みました。彼の黒は、決して絶望の黒ではありません。次に訪れる輝きをより際立たせるための、贅沢なベルベットのような暗闇なのです。

あなたは、自分の人生が、物語として少しばかり地味だと思っていませんか。刺激的なこともなく、劇的な救済もなく、ただ淡々と、砂を噛むような日常が続いている。そんな風に、自分を卑下してはいませんか。もしそうなら、今すぐルーベンスの画集を開いて、その色彩の濁流に身を任せてみるべきです。彼の絵は、あなたに教えてくれる。どんなに平凡に見える光景の中にも、神の指先が触れたような奇跡が潜んでいるのだということを。

「ルーベンスの三美神」をご存知でしょうか。三人の女神たちが、互いに腕を取り合い、優雅に、かつ堂々と立っているあの絵です。彼女たちの肉体は、重力に逆らうことなく、しかし大地にしっかりと根ざしている。あの中に、痩せっぽちの、はかなげな美しさなどどこにもありません。あるのは、生きる喜びそのものが、皮膚を突き破って外へ飛び出そうとしている、その力強い意志です。あなたは、あの女神たちの中に、自分自身の可能性を見出すべきです。あなたの中にも、あの女神たちと同じ、熱い血が流れている。あなたの中にも、宇宙を震わせるほどの情熱が、眠っているはずなのです。

もちろん、彼のような天才の真似をしろと言っているのではありません。私たち凡人が、彼のように振る舞えば、ただの誇大妄想狂として笑われるのが落ちでしょう。しかし、彼の「視点」を盗むことはできる。世界を、呪うべき場所としてではなく、愛でるべき劇場として捉え直すことは、あなたにも、私にもできるはずなのです。

あなたは、今日という日を、どう過ごしましたか。誰かを恨みましたか。自分を呪いましたか。それとも、ただ虚しさに耐えていましたか。もしそうなら、寝る前に一度だけ、ルーベンスのあの「キリスト昇架」を思い出してごらんなさい。筋肉のぶつかり合い、光と影の激しい交錯、そして、苦難の先にある崇高なまでの勝利。ルーベンスは、死でさえも、一つの完成された美として描き切りました。彼にとって、この世に無駄なものなど、何一つとして存在しなかったのです。

あなたは、素晴らしい。あなたが、今、こうして私の下手な独白を読んでくれている、そのこと自体が、一つの奇跡なのです。ルーベンスなら、きっとあなたのその横顔を、ドラマチックな光の中に描き出すことでしょう。あなたの瞳の奥にある小さな憂いさえも、高貴なパールの輝きとして、キャンバスに残すに違いありません。

あなたは、愛されるために生まれてきたのです。これは、甘ったるい感傷ではありません。ルーベンスという巨人が、その生涯をかけて証明し続けた、冷厳な、そしてこの上なく温かい真理なのです。彼は、神から与えられた才能を、一滴も残さず使い切りました。そしてその作品を通じて、数百年後のあなたにまで、そのエネルギーを届けようとしている。

ああ、あなた。ルーベンスを知ることは、自分自身の内側にある「肯定」のスイッチを見つけることでもあります。あなたが、自分の不完全さを嘆きたくなったとき、彼の描いた、あのむせ返るような豊満な世界を思い出してください。そこには、清貧だの節制だのといった、私たちの首を絞めるような道徳など、どこ吹く風と笑い飛ばす、巨大な生命の肯定があるのですから。

あなたは、もっと欲張りになっていい。もっと、この世の美しさを、貪欲に食い荒らしていいのです。ルーベンスが、王たちの御用絵師として、最高の栄誉と富を手にしながらも、なおその筆を止めることなく、死の瞬間まで描き続けたように。彼にとっての成功とは、名声や金銭ではなく、一筆ごとに、この世の真実を掴み取っていく、その過程そのものにあったのです。

あなたは、もう十分に頑張ってきました。これからは、少しだけルーベンス的な視点を持って、世界を眺めてみませんか。灰色の雲の向こうに、金色の光が透けて見えるはずです。道端に咲く名もなき花の中に、バロックの壮麗な旋律が聞こえてくるはずです。あなたの人生というキャンバスに、もっと大胆な色を置いてみてください。失敗したって構わない。ルーベンスだって、弟子の手による修正を厭わなかった。大切なのは、描き続けること。この美しい世界を、自分のものとして、力強く抱きしめることです。

さあ、あなた。私の話は、そろそろ終わります。でも、あなたの物語は、これからが本番です。ルーベンスが描いた英雄たちのように、胸を張り、顔を上げ、この眩しい光の中へ歩き出してください。あなたの足取りが、少しでも軽やかになったなら、私のこの長ったらしい、そして少しばかりお節介な手紙も、報われるというものです。あなたは、この世でたった一人の、かけがえのない芸術品なのだから。ルーベンスがもし今、あなたの前に現れたなら、彼は間違いなく、最高の笑顔であなたを讃えることでしょう。そして、大きな声でこう叫ぶはずです。「生きろ、あなた!美しく、豊かに、そして誰よりも力強く!」と。

あなたは、その言葉を受け取る資格がある。あなたは、この素晴らしい世界を、余すところなく楽しむ権利がある。どうか忘れないでください。あなたの背後には、いつもルーベンスの描いたあの輝かしい光が、太陽のように降り注いでいるということを。さようなら、愛すべきあなた。どうか、良い夢を。そして、それ以上に素晴らしい目覚めを。ルーベンスの色彩に彩られた、輝かしい明日が、あなたを待っています。