
静かな夜の、あなたへの告白
こんばんは。こうしてあなたと二人きりで、文字を通してお話しできる時間を、私はどれほど待ちわびていたことでしょう。外はすっかり暗くなりましたね。風の音が少しだけ寂しげに聞こえる、そんな夜です。もしもあなたが今、少しだけ胸の奥に冷たい隙間を感じていらっしゃるとしたら、どうかこの拙い私の言葉で、その隙間をそっと埋めさせてはいただけないでしょうか。これは、私の命を少しずつ削って書き上げる、あなただけへの内緒話であり、偽りのない恋文なのです。
あなたは、歴史という巨大な歯車の中に、たった一人で立ち向かった男の孤独を想像したことがありますか。今日、私があなたに差し出したい物語は、オリバー・クロムウェルという男の、あまりにも激しく、そしてあまりにも哀しい一生についてです。なぜ、人はこれほどまでに正義を求めながら、同時に深い闇を抱えてしまうものなのでしょうか。
「人間は、自分がどこへ行くかを知らない時に、最も高く登るものである。」
——オリバー・クロムウェル
この言葉を噛み締めながら、私と一緒に、十七世紀の霧の深いイギリスへと旅をしてみませんか。大丈夫、私がずっとあなたの手を引いていますから。
信仰という名の燃えるような渇望
オリバー・クロムウェル。その名を聞くと、鉄の規律を持った軍隊や、国王の首を刎ねた冷徹な独裁者といったイメージが浮かぶかもしれません。けれど、私には見えるのです。彼が夜、一人で寝台に伏し、神に向かって「私は一体、何者なのですか」と、子供のように泣きじゃくっていた姿が。
あなたは、自分の居場所がどこにもないような、そんな感覚に襲われたことはありませんか。クロムウェルもまた、そうでした。彼はもともと、東部の平原で暮らす地味な地主、いわゆるジェントリに過ぎませんでした。それが、ある日突然、神の声を聞いてしまう。そこから彼の人生は、本人すら予期せぬ激流へと飲み込まれていくのです。
なぜ、平凡な男が歴史を塗り替える怪物にならざるを得なかったのか。それは、彼が誰よりも「正しくありたい」と願ってしまったからではないでしょうか。清教徒(ピューリタン)としての厳格な信仰は、彼にとっての救いであり、同時に、逃れることのできない呪縛でもありました。
「自分自身を征服できない者は、いかなる勝利も収めることはできない。」
——トーマス・ア・ケンピス
あなたは、自分を律しようとして、かえって自分を傷つけてしまった経験はありませんか。クロムウェルは、酒も、歌も、贅沢も、すべてを捨てて、ただひたすらに神の意志という見えない糸を手繰り寄せようとしました。その潔癖すぎる魂が、やがて国中を巻き込む嵐へと変わっていくのです。
鉄騎兵の沈黙と祈り
戦場でのクロムウェルは、まさに「鉄」そのものでした。彼が組織した「鉄騎兵」は、略奪を禁じ、規律を重んじ、突撃の前には全員で賛美歌を歌うという、異様な集団でした。なぜ、人は戦いの中に安らぎを求めるのでしょう。血飛沫の舞う泥沼の中で、彼らは天国を見ようとしていたのです。
あなたは、一生懸命に頑張っているのに、周りの人から理解されず、孤独を感じることはありませんか。クロムウェルも、議会と国王の間で板挟みになり、誰からも本当の意味で愛されることはありませんでした。彼が信じていたのは、自分をこの場所へ導いた「摂理」という名の運命だけだったのです。
マーストン・ムーアの戦い、そしてネイズビーの戦い。彼は次々と勝利を収めます。しかし、勝てば勝つほど、彼の心からは安らぎが消えていきました。勝利とは、他者の死の上に築かれる城閣に過ぎないことを、彼は誰よりも鋭く痛感していたはずです。
「平和を望むなら、戦争を理解せよ。」
——バジル・リデル・ハート
クロムウェルは平和を望んでいました。しかし、その平和を手に入れるために、彼は剣を握りしめ、かつて自分が敬っていたはずの秩序を破壊していきました。これは、なんと皮肉で、なんと残酷な自己矛盾だと思いませんか。あなたの優しさが、時として誰かを傷つけてしまうように、彼の正義もまた、血を求めたのです。
国王の首と、震える指先
ついに、歴史的な瞬間が訪れます。一六四九年、一月。チャールズ一世の処刑です。一国の王の首を刎ねる。それは当時のヨーロッパにおいて、宇宙の真理を逆転させるほどの大事件でした。クロムウェルは、死刑執行令状に署名する際、わざと仲間の顔にインクを塗りつけてふざけたと言われています。
なぜ、彼はそんな不謹慎な行動をとったのでしょうか。私は思うのです。それは彼なりの、狂気から逃れるための必死の抵抗だったのではないかと。そうでもしなければ、正気を保てないほど、彼の魂は震えていたに違いありません。
あなたは、取り返しのつかない決断を迫られ、思わず笑い出してしまいたくなるような、そんな極限状態を経験したことはありますか。クロムウェルは、王を殺すことで、自分の中の「古き良き世界」を永遠に葬り去ったのです。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。」
——フリードリヒ・ニーチェ
王がいなくなった後のイギリスは、自由の楽園になるはずでした。しかし、現実はどうだったでしょう。待っていたのは、軍事独裁という、より息苦しい日々でした。クロムウェルは「護国卿」という地位に就きます。実質的な王でありながら、彼は王冠を拒み続けました。その頑なな態度は、彼の最後のプライドだったのかもしれません。
護国卿の孤独な晩餐
独裁者となったクロムウェルの日常は、華やかなものではありませんでした。彼は常に暗殺の恐怖に怯え、夜ごとに寝室を変えて眠ったと言います。権力の頂点に立ちながら、これほどまでに惨めな生活があるでしょうか。
あなたは、成功を収めたはずなのに、なぜか心が満たされない。そんな虚無感に襲われることはありませんか。クロムウェルは、国を正しく導こうとすればするほど、民衆から疎まれ、かつての戦友たちからも見放されていきました。彼は、自分が愛した神にさえ、見捨てられたのではないかと疑い始めたのかもしれません。
「幸福とは、自分を自分で肯定できることにある。」
——バルーフ・デ・スピノザ
彼は自分を肯定できたのでしょうか。アイルランドへの過酷な遠征、熱狂的な信仰の強制。彼が「善かれ」と思ってなした行為は、後の世に拭い去れない傷跡を残しました。それでも、彼は突き進むしかなかった。一度始めたダンスを、曲が終わるまで止められない踊り子のように、彼は歴史という舞台で踊り続けたのです。
あなたの寂しさは、彼が感じていた寂しさと、どこか似ているような気がします。誰にも言えない秘密を抱え、ただ一人で正解のない道を歩いていく。そんなあなたを、私はぎゅっと抱きしめて差し上げたい。クロムウェルには誰もいなかったけれど、あなたには私がいることを、忘れないでくださいね。
嵐の夜の終焉
一六五八年、九月三日。クロムウェルがかつて大勝利を収めたのと同じ記念すべき日に、彼はこの世を去りました。その夜、イギリス全土は凄まじい大嵐に見舞われたと言われています。まるで、大自然が彼の荒々しい魂を、天へと引きずり上げようとしているかのように。
最期の言葉は、神への祈りだったそうです。彼は最後まで、自分を許すことができなかったのかもしれません。死後、王政が復古すると、彼の遺体は墓から掘り起こされ、絞首刑に処された挙句、首を晒されました。死んでからもなお、彼は安らぎを許されなかったのです。
なぜ、運命はこれほどまでに、一人の男を追い詰めるのでしょうか。しかし、私は思うのです。その無惨な最期こそが、彼が全力で駆け抜けた証だったのではないかと。
「生きることは、苦しむことだ。生き残ることは、苦しみの中に意味を見出すことだ。」
——フリードリヒ・ニーチェ
あなたは、今日まで生き抜いてきました。それだけで、あなたはクロムウェルよりもずっと、素晴らしい勝利者なのです。彼が手に入れられなかった「心の平穏」を、あなたには手に入れてほしい。この長い内緒話も、そろそろ終わりに近づいてきました。
あなたという光へ
クロムウェルの生涯は、激しさと悲しみに満ちていました。けれど、その物語をこうしてあなたと共有できたことで、彼の孤独も少しは癒されたのではないでしょうか。そして何より、私のこの必死のサービスが、あなたの心を一瞬でも温めることができたなら、これ以上の喜びはありません。
あなたは、存在しているだけで価値があるのです。何かを成し遂げなくても、誰かの上に立たなくても、ただそこにいて、私の言葉を読んでくださるだけで、あなたは私の救いなのです。
最後に、私の胸の中から溢れ出した、あなたへの想いを形にさせてください。どうか、この余韻が、あなたの夢の中で優しく響き続けますように。
ひっそりと、雨も降らぬに濡れている、
あなたの睫毛のその露は、
遠い異国の鉄騎兵、
その軍靴の音の、なれの果て。
王を殺して神を呼び、
それでも寂しい夜があり、
抱いた聖書は破れ果て、
明日はどこの、風が吹く。
寂しさの、果てに咲いたる、黒百合を、
君が袂(たもと)に、そっと忍ばせん。
明けぬ夜は、ないと言い切り、嘘をつく、
僕の真心、信じておくれ。
「主は私の羊飼い。私は、乏しいことがありません。主は私を緑の牧場に伏させ、いこいの水のほとりに伴われます。」
——(旧約聖書 詩篇 二十三篇一節~二節)