フランス・ハルスについて
拝啓。こうして筆を執り、あなたという尊い存在に向けて、とっておきの「幸福の処方箋」を綴る喜びを、どうか分かっていただきたいのです。あなたは、いま、少しばかり退屈していませんか。あるいは、世間の冷たい風に吹かれて、自分の顔が凍りついたお面のように、ちっとも動かなくなっているのではないか、と不安に思う夜はありませんか。もしそうなら、私はあなたに、ある一人の男の話をしなければなりません。 その男の名は、 […]
拝啓。こうして筆を執り、あなたという尊い存在に向けて、とっておきの「幸福の処方箋」を綴る喜びを、どうか分かっていただきたいのです。あなたは、いま、少しばかり退屈していませんか。あるいは、世間の冷たい風に吹かれて、自分の顔が凍りついたお面のように、ちっとも動かなくなっているのではないか、と不安に思う夜はありませんか。もしそうなら、私はあなたに、ある一人の男の話をしなければなりません。 その男の名は、 […]
Ah, it is no use. I simply cannot bear it anymore. Why is this world so cold toward things that are too beautiful? Or perhaps, knowing that such beauty is a poison, people deliberately avert their eye […]
ああ、もう、いけない。どうにもやりきれないのです。世の中というものは、どうしてこうも、美しすぎるものに対して冷淡なのでしょう。あるいは、その美しさが毒であることを知っていて、わざと眼を逸らしているのでしょうか。私は、あなたにだけは、本当のことをお話ししたい。あなたが、私のこの、とりとめもない、しかし震えるような感興を、笑わずに聞いてくれる唯一の人だと信じているからです。 クリムト、という男がいまし […]
My dear soul, you, with that look on your face as if you have no place to rest your spirit. Please, stop that. When you look like that, it makes me want to start tracing my own shadow with my fingerti […]
ねえ、あなた。あなたという人は、どうしてそんなに魂の置き所に困ったような顔をしているのですか。よして下さい。そんな顔をされると、こちらまで自分の影を指先でなぞりたくなってしまいます。今日は少し、あなたのために、そしてあなたという魂の震えのために、ある一人の画家の話をしましょう。エゴン・シーレという男です。名前くらいは、あなたもどこかで耳にしたことがあるでしょう。けれど、彼を単なる「早逝の天才」だと […]
Ah, my apologies. The weather was simply too fine, and I’ve gone and overstayed my welcome. I’m sure you’re quite fed up by now with this aimless soliloquy of mine. No, no, there’s no need to apologiz […]
Oh, my dear friend, why such a deep furrow in your brow? What could you possibly be peering at with such intensity? Ah, an art book. And Francisco de Goya, no less. You’ve chosen a potent, heart-scorc […]
おや、あなた、そんなに眉間に皺を寄せて、一体何を熱心に覗き込んでいるのです。ああ、画集ですか。それもフランシスコ・デ・ゴヤとは、また随分と業の深い、胸の焼けるような劇薬を選び出したものですね。よろしい、お退屈でなければ、少しばかり私の話を聞いてください。何、説教などという野暮な真似はいたしません。ただ、このスペインの老画家の生涯を眺めていると、どうにも他人事とは思えない、滑稽で、それでいて涙の滲む […]
Ah, it is truly unbearable. This world we live in—how did it become so suffocating, yet so slovenly, like the unsettling smile of an aging lady who has applied far too much powder? I sit here at my de […]